ミストラルから樹を守るためのエシャラ(支柱)
ローヌならではの風景だ。
(注)ミストラル=ローヌ地方特有の強風のこと。


ドメーヌ・アンドレ・フランソワ


男の生活は何一つ変わっていない。
コートロティのシラー


1999年某日、フランスの片田舎アンピュイの村では
慣例のワインコンテストが開かれた。

そこは《コートロティの最高峰》を決めるため、世界の関心を一身に集めている厳粛な場でもあった。
優勝者の名が高らかに読み上げられ、満場の拍手でもって一人の男が金メダルを受け取った。

静かにメダルを手にした彼は、その特有のちょっとはにかんだような
かすかな笑みを浮かべてちょこっと一礼し、何事もなかったように静かに帰っていった。

その人こそ、このコートロティを生み出すアンドレ・フランソワさんだ。


男の生活は何一つ変わっていない。
 男の生活は何一つ変わっていない。ささやかな彼の3ヘクタールの畑の世話に明け暮れ、ぶどうと話す毎日。
 アンピュイの街並みを一望する勾配の畑は、冗談ででもつまずくフリをしようものならそれがこの世で見納めの景色になりかねない角度。
 ぶどうの樹間が極端に狭い彼の畑からは、毎年わずかな量を残し、房の大半をもぎ取ってしまう。


口元にシャイがにじみ出ているフランソワさん。


畑の真下にはローヌ川とアンピュイの村が広がる。

 その生産量が、あのギガルのトゥルク(いまや大資本家で超有名、一本五万円以上で愛好家にありがたがられつつ飛ぶように売れている、あれですよ、あれ)と、同じ量だろうが何だろうが、そんなことは彼の脳裏をかすめもしない。

 彼にとって、問題は今日の天気がどうなのか、ただそれだけ。

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